先日の9月1日、関東大震災発生からちょうど100年の節目を迎えました。明日9月6日は、北海道胆振東部地震発生からちょうど5年になります。その爪痕は今もまだ各所に残り、大切な人を失ったご家族の心の傷は癒えることはありません。この場を借りて謹んでお悔やみ申し上げます。
テレビ画面に映し出された広範囲な地滑り、札幌市清田区などにおける大規模な液状化、北海道のほぼ全域に及ぶかつてない規模の長時間停電(電源喪失)、スーパーやコンビニの棚から品物が消え、ガソリンスタンドに長蛇の列ができたのも記憶に新しいことと思います。
このような未曾有の事態が現出したために忘れられがちですが、地震発生2日前、台風21号が北海道を襲い各地に大きな被害をもたらしています(札幌市の最大瞬間風速33.4m、俱知安町42.4m)。この台風による被害状況等は、北海道庁のサイト平成30年台風21号による被害状況等 – 総務部危機対策局危機対策課 (hokkaido.lg.jp)で閲覧できます。ちなみに、ライフラインの被害について一部を抜粋すると(9月5日8:00前後発表分)以下のようになっています。
国道通行止め:3路線6区間、道道通行止め:63路線71区間、高速道路通行止め:2路線3区間、JR運休:470本、停電:約55,000戸
この被害状況は次の第2報(9月5日16:30発表)の際には、
国道通行止め:3路線6区間、道道通行止め:33路線35区間、高速道路通行止め:無し、JR運休:61本、停電:約21,800戸
となり、時間の経過とともに復旧が進んでいるのがわかります。
それにしても、もしこの台風上陸が2日遅れるか、もしくは地震発生が2日早かったらどうなっていたでしょうか。
「複合災害」という言葉があります。これをネットで検索するとウィキペディアに2つの事例が挙がってきます。一つは台風・地震・豪雪によって被害が拡大した新潟県中越地震、もう一つは地震・津波・原発事故によって被害の甚大かつ複雑化を招いた東日本大震災です。ただこの複合災害についてはネット上に様々な認識が提示され、まだ明確な定義がなされていないようなので、ここでは自然災害が同時多重的に発生した場合のみに言及します。
では前述で問題提起した仮定のごとく、胆振東部地震発生と台風21号の北海道上陸が同時だった場合を考えてみます。まず、北海道が作成した上記の台風21号被害状況経過報告ですが、完全な複合災害のためそもそも正確に状況を把握し報告ができるかどうかわからなくなります。地震と台風2つの対応計画の策定や対策チームを作らねばならず、ライフラインを管理している行政はそのすべての対応に追われ現場は混乱を極めるでしょう。それどころか、土砂崩れや倒木などによる交通網の寸断、暴風による救助ヘリコプターや医療ヘリコプターの飛行不能などで最優先事項となる人命救助ですら難しくなります。さらにはブラックアウトにより携帯電話を含む機器が使用不能、燃料輸送も滞り、被害は拡大かつ長期化することが予想されます。仮に自衛隊などが可動できたとしても相乗的な救助活動が必要となる状況下で2次災害の危険性は格段に上がります。
現在のところ、地震と台風や暴風が最悪のタイミングで同時発生したという記録は残っておりませんが、台風21号と北海道胆振東部地震が完全な複合災害となる可能性は十分ありました。実はこの紙一重だった状況を考察している関連資料は意外に少ないのですが、我々が日本という国土に住む以上、いつか必ず起こることとして想定しておかねばならないでしょう。ちなみに、この胆振東部地震と台風21号の状況を複合災害とからめて論じているところが少ないなか、NTTdocomoさんはこれを明確に複合災害と位置づけています(台風21号(チェービー)/北海道胆振東部地震 (docomo.ne.jp))。また、『水道協会雑誌』第90巻第3号(第1038号)(ja (jst.go.jp))では、札幌市水道局の幹部の方たちが、この二つの自然災害を踏まえ、次のように述べています。
「従来、各種の防災計画や訓練は個別の災害に対応したもので、複数の災害が同時に作用することを想定していないことが多い。そのような中、本地震とその直前の台風、直後のブラックアウトは、現実に災害が同時多重的に生じうることを明確にした。/近年、全国的に台風による被害が激甚化しているが、これと同時に地震が発生することも想定される。また、北海道などの積雪寒冷地においては冬季に被災した場合、通常の災害対応に加えて、積雪環境下における活動手段の確保・応急給水の凍結防止など様々な防寒対策が必要となる。/以上の状況を踏まえ、水道事業体においても今後、複合災害への備えを確実に進め、危機耐性を高めていく必要があるといえる。」
