令和7年上半期は驚くべきことに芥川賞も直木賞も該当作なしとなりました。ですので、7月以降に読んだものの中で、小説に関しては未読だった話題作を中心にご紹介したいと思います。
今回読んだものの中で(田中)個人的なイチオシは宮島未奈さんの『成瀬は天下を取りにいく』。2024年の本屋大賞を取っただけあって、あっという間に読み終えてしまう面白さでした。過不足のない文章はリズムがよく、読者を先へ先へと引っ張っていきます。老若男女が楽しめるストーリーは、家族での回し読みをお勧めできる作品です。
-776x1024.jpg)
門井慶喜著『銀河鉄道の父』(第158回直木賞)―詩人で童話作家だった宮沢賢治の父・政次郎を主人公にした作品です。父親の目を通して素のままの人間・宮沢賢治を活写し、愛しさに満ちた親子と家族の葛藤を心温まる文章で綴っています。2023年に役所広司さんが政次郎役で映画化されました。
-770x1024.jpg)
池田彌三郎・谷川健一著『柳田国男と折口信夫』―日本民俗学の巨人であり嚆矢とも言える二人の民俗学者、柳田と折口について、同じく民俗学の重鎮だった谷川と国文学の権威だった池田が織りなす対談集です。対談した二人もすでに故人となって久しいのですが、巨人二人の素顔が覗ける貴重な記録です。
-735x1024.jpg)
原田マハ著『キネマの神様』―ストーリーテラー原田マハさんの真骨頂ともいうべき本作。その面白さは、読む人を最後まで一気に引っ張っていきます。登場人物は皆キャラクターが際立っておりまったく飽きさせません。2021年に山田洋次監督のオリジナル脚本によって映画化された本作は、コロナで亡くなった志村けんさんの代役を沢田研二さんが務めたことでも有名です。
-768x1024.jpg)
スティーヴン・ウルフラム著『ChatGPTの頭の中』―理論物理学者で最新AIの開発にも寄与している著者本人が、AIやChatGPTの計算過程や思考過程を叙述した本です。専門家でなければ理解できない箇所もありますが、大略を掴めれば、いま我々の身近にある最新技術の奇想天外さに驚かされること必至です。
-679x1024.jpg)
青木枝朗訳『ヒュースケン日本日記』―幕末にアメリカの通訳として日本にやってきたオランダ人ヒュースケンの日記です。現代日本人の価値観に近い感覚で当時の日本を素描する面白さもさることながら、ニューヨークを出発して東回り航路で日本へ辿り着くまでの間の寄港地各国のようすも詳細に記述され、大変興味深い内容になっています。
-766x1024.jpg)
徳丸吉彦著『ものがたり日本音楽史』―ジュニア新書とはいいながら、専門的な音楽理論などにも紙幅を割く本書は、なかなか読みごたえがあります。日本の原初から音として記録に残っているものを網羅し、例えば、富山の胡弓や沖縄の三線など地域で発展した音楽にも触れています。音楽を職業にしている方から趣味の方まで、“音”のある生活を豊かにできる一冊です。
-705x1024.jpg)
朝井まかて著『グッドバイ』―幕末から明治にかけて活躍した実在の女性商人・大浦慶を主人公に据えた歴史時代小説です。まさに女傑ともいえるこの大浦慶の生きざまをとおして、著者の繊細な筆致が幕末維新の激動期を色彩豊かに描いていきます。大浦慶が実際に交流のあった誰もが知る維新の志士たちも数多く登場するので歴史好きにもお勧めです。
-759x1024.jpg)
河村小百合・藤井亮二著『持続不可能な財政-再建のための選択肢』―国の経済政策を論ずるとき、大きく分けると積極財政派か財政再建派の二つになります。題名のとおり本書は財政再建を論じたものです。増税も視野に入れたその内容に対しては賛否両論あると思いますが、国家財政の現状と未来が決して楽観視できるものではないことを、二人の専門家が精緻な資料をもとに明らかにしています。

永島道男著『ヘボン博士の辞書物語』―幕末から明治にかけて日本に滞在したヘボン博士の伝記的小説です。自費出版のため書店の棚に並ぶことも稀ですが、日本語研究家も手に取るべき内容となっています。折しも令和7年12月16日に政府は、現行の内閣告示ローマ字表記を、約70年ぶりに「ヘボン式」を基本にして変更すると閣議決定しました。30年以上に渡るヘボンの日本での生活を活写し、日本語採集過程も記載されているため、当時の言葉の変遷を知るうえでも貴重な資料と言えます。
-766x1024.jpg)