次の日曜日、終戦から78年目の広島原爆の日を迎えます。終戦後に生まれた私たち世代は、もはや証言と記録でしか悲惨な戦禍を知ることができません。時間の経過とともに戦前戦中生まれの方がお亡くなりになり、語り部たる戦争経験者が減っていく中、私たち戦後生まれの日本人は、広島や長崎の惨禍そして沖縄など他の多くの戦災記録と真正面から向き合い、後世に引き継いでいかなければなりません。その使命ともいえる戦争体験の継承を私たちに託しているかのように、戦争を経験した作家たちが多くの戦争文学を残してくれています。
被爆後の広島を主な舞台とした井伏鱒二の小説『黒い雨』は、核兵器の非人道性を克明に活写します。躍動感や意外性を求められることの多い現代作家の作品とは違い、平明かつ淡々とした井伏の文体が作品を綴り、それだけにリアリティーをもって迫ってきます。この小説を読む人は、人間であるからこそ心を揺さぶられ、日本人であるからこそ涙を流さずにはいられません。